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東京地方裁判所 昭和44年(行ウ)159号 判決 1973年5月10日

東京都大田区大森西六丁目一七番六号

原告

東邦建設株式会社

右代表取締役

里見新一

右訴訟代理人弁護士

三宅能生

右訴訟復代理人弁護士

重国賀久

東京都大田区中央七丁目四番一八号

被告

大森税務署長

磯野精一

右指定代理人

日蒲人司

角張昭治郎

古谷栄吉

高柳貞男

主文

被告が昭和四三年一二月二五日付で原告の昭和四〇年四月一日から昭和四一年三月三一日までの事業年度の法人税についてした更正を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一双方の申立て

(原告)

主文と同旨の判決を求める。

(被告)

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求める。

第二双方の主張

(原告の請求原因)

一、大洋興業株式会社は原告肩書住所地と同一地に本店を有し、青色申告書提出の承認を受けた法人であつたが、昭和四四年二月六日原告に合併されたものである。

原告(当時の大洋興業株式会社以下同じ。)は、昭和四〇年四月一日から昭和四一年三月三一日までの事業年度(以下「本事業年度」という。)の所得金額、法人税額をいずれも〇円とする確定申告書を青色の申告書により提出したところ被告は原告に対し、昭和四三年一二月一五日付で所得金額を四一八万三〇二四円、法人税額を一四七万三七〇〇円とする更正をし、その旨原告に通知した。そこで原告は、昭和四四年一月一八日東京国税局長に対し審査請求をしたが、同年三月三一日審査請求を棄却する旨の裁決がされ、同年五月一二日右裁決書謄本が原告に送達された。

二、本件更正は、以下の理由によつて違法であるから、その取消しを求める。

1 本件更正の通知書には、更正の理由として「前受金のうち雑収入に計上すべきもの五〇〇万円」との記載があるが、この記載では、更正の理由を理解することができず、本件更正は、法人税法一三〇条二項に規定する理由の附記を欠いた違法がある。

2 そうでないとしても、本件更正は、その内容においても誤つた違法なものである。すなわち、原告が、前受金として負債に計上した五〇〇万円は、原告が相互信用販売株式会社(以下「信用販売」という。)との間に土地売買契約を締結した際、手付金として受領したものであるが、原告は、昭和四三年七月頃信用販売が倒産したことを知るまでは、右売買契約に基づく手付金の没収を考えたことはなかつたのであるから、これが本事業年度の雑収入とされるいわれはない。

(被告の答弁および主張)

一、請求原因一の事実は認める。同二の1のうち、被告が本件更正の通知書に原告主張のとおりの理由を附記したことは認める。

二、本件更正はつぎのとおり適法である。

1 原告は、信用販売との間に、昭和四〇年四月五日付で横浜市南区別所町字矢畑一一一二番地所在の山林約一九八三坪および同区日野町四一二番地の一一外六筆の山林合計約三一二坪について、原告を売主、信用販売を買主とする土地売買契約(以下「本件売買契約」という。)を締結し、その際手付金五〇〇万円を受領した。その後信用販売は、右売買契約の条項中の「買主が正当な理由なくして売買代金を約定の支払期日に支払わないときは、売主は、買主に対し相当の期間を定めて催告して本契約を解除することができ、契約解除となつた場合は手付金を没収して売主の所有とする。」旨の約定に基づく原告の催告に対し、昭和四〇年五月二八日付で、「同年六月三日までに代金の支払いができないときは右手付金を放棄する。」旨申し入れ、結局右期日までに代金を支払うことができず、同日手付金五〇〇万円を放棄したのである。

したがつて、原告が前受金として負債に計上した右手付金の五〇〇万円は、本事業年度の雑収入に計上すべきものである。そこで、被告は、右五〇〇万円を益金に加算し、未収金のうち回収不能と認められる二二万円および繰越欠損金控除額の過少分五九万六九七六円はこれを控除すべきものとして修正計算を行ない、原告の本事業年度の所得金額を四一八万三〇二四円としたのであるから、本件更正に誤りはない。

2 本件更正の内容は、右手付金五〇〇万円の益金計上の点だけを問題としたものであり、この点については、被告の調査の段階から原告が争つていたことであるし、また、被告が使用した「前受金」の語は、原告から提出のあつた確定申告書の添付書類である貸借対照表および勘定科目内訳明細書の「仮受金(前受金、預り金)の内訳書」中に具体的に使用されている用語であるから、原告はもとより、青色申告者として認められる程度の会計知識を有する者であれば、前記の程度の理由の記載で本件更正の理由を具体的に理解できるものである。したがつて、本件更正の理由附記に瑕疵はない。

かりに、本件更正における理由附記が不十分であるとしても、本件更正に対する原告の審査請求を棄却した裁決においては、十分な理由が補完されており、右裁決書謄本は、被告が更正をすることができる期間(国税通則法七〇条一項、法人税法七四条一項)内に原告に送達されているのであるから、これによつて、前記の瑕疵は治ゆされたというべきである。

(被告の主張に対する原告の答弁および反論)

一、原告が信用販売との間に被告主張のような契約条項を含む本件売買契約を締結し、手付金五〇〇万円を受領したことは認めるが、原告の催告により信用販売が被告主張のような申入れをし、その主張の日に手付金を放棄したとの事実は否認する。原告が、その提出にかかる確定申告書の添付書類に「前受金」の語を使用した事実は認める。

二、本件売買契約は、その契約書の文言上は、代金の最終支払日を昭和四〇年五月二八日とするなど、通常の売買の形式をとつているが、その実質的な内容は、信用販売のセールスを利用するために結ばれたものであつて、原告が寺田喜久から買い受けた山林を目的物件とし、これを原告が適当な坪数に合筆・分筆し、信用販売が顧客を見つけて販売するというものであり、一種の継続的取引契約である。そして、昭和四〇年六月三日までに、信用販売が顧客をみつけたため同社に売却された物件は、一八件、代金総額一八五八万〇一九〇円であつた。したがつて、信用販売から昭和四〇年五月二八日付申入書によつて、原告に対し、同年六月三日までに契約上の義務を履行しないときは手付金を放棄する旨の申出があつたが、その際、右期日以後も顧客のある場合は、直ちに契約を解除せず、手付金の没収は原告の選択に委せるとの双方暗黙の了解があつたのである。そして、原告は、右手付金を没収することなく、右期日後である同年六月一七日から同年一一月二五日までの間にも、合計一一件、代金総額一一八九万三六四〇円の物件を信用販売に対し売却したのであつて、被告の認定に誤りがあることは明白である。

(原告の右主張に対する被告の答弁)

原告の主張事実中、本件売買契約は、原告が寺田喜久から買い受けた山林を目的物件とし、これを適当な坪数に合筆・分筆し、信用販売が顧客を見つけて販売する内容のものであるとの点は認めるが、信用販売から条件付で手付金放棄の申出があつた際、原告主張のような暗黙の了解があり、昭和四〇年六月三日後も原告から信用販売に対し物件の売却があつたとの事実は否認する。その余の事実は知らない。

第三証拠関係

原告は、甲第一ないし第五号証を提出し、乙第四号証の三、四のうち赤字記入部分の成立は不知、その余の部分ならびにその乙号各証の成立は認めると述べた。

被告は、乙第一ないし第五号証(第四号証は一ないし四)を提出し、甲第二、第三号証の成立は不知、その余の甲号各証の成立は認めると述べた。

理由

一、請求原因一の事実(本件更正の経緯等)は、当事者間に争いがない。

二、そこで、本件更正の理由附記の適否について判断する。

1  本件更正の更正通知書に、更正の理由として「前受金のうち雑収入に計上すべきもの五〇〇万円」と記載されていることは、当事者間に争いがない。

2  右理由の記載によれば、被告が雑収入に計上すべきものとして本事業年度の益金になるとした金額が、原告の確定申告書添付の貸借対照表等の資料(乙第四号証の三、四のうち成立に争いのない部分)との関連において、信用販売からの前受金五〇〇万円であることは、明らかにされているといえる。

しかし、右の記載によつては、被告がなにゆえにそれが原告の本事業年度の益金になると判断したかの具体的根拠を了知することは不可能である。被告は、本件更正の理由として、原告が前受金として計上した手附金五〇〇万円は、本事業年度中に相手方信用販売においてこれを放棄したから、原告の取得するところとなり、原告の雑収入となる旨主張するが、前記の理由の記載からは、その主張のような具体的理由を推知することはできない。

3  そうすると、本件更正には、理由の附記に欠ける違法があるというべきである。

被告は、本件更正の内容は手付金の益金計上の点だけを問題としたものであり、原告は調査の段階からこの点について争つていたことを理由として、原告には右程度の理由の記載でも更正の理由を十分了知できる事情があつたから、本件更正の理由附記に違法はない旨主張するが、更正通知書に更正の理由の附記を命じた法人税法一三〇条二項の規定の趣旨が、書面による客観的な理由附記によつて処分庁の判断の慎重、合理性を担保し、その恣意を抑制しようとする点にあることに鑑みるならば、更正の理由は、納税者の提出した確定申告およびその者の備える帳簿書類との関連において、更正通知書の理由の記載自体から了知しうる程度に記載されることを要すると解すべきであるから、被告の右主張は、それ自体失当である。

4  また、被告は、本件更正の理由附記に不備があるとしても、審査裁決書において十分な理由が記載されたことによつて、右瑕疵が治ゆされた旨主張するが、前記規定の趣旨に鑑み、このような被告の主張が採用できないことも明かである。

三、したがつて、その余の点について判断するまでもなく、本件更正は違法であるから取消しを免れないものというべく、原告の請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 杉山克彦 裁判官 青山正明 裁判官 石川善則)

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